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「蕎麦ロボット28号」 第2回
作: 夢八
一周年パーティ2 その2
「お父さん、先生から花輪が届いた。」娘の純。彼女もまた、高校卒業後、店で働いている。
「また、花輪か。一杯になるから、先生にいいと言ったんだけど」と、良。
「良さん、今回は、多いほどいいんだよ。希庵から来る花輪、大事にしないと。先生のおかげなんだからね。」
近藤の言うとおり、今あるのは、希庵の黒沢の名前の力が大きいのだ。
3年前に、良は、近藤の計画に沿ってスケジュール通り動いた。まず黒沢の店に6ヶ月見習いに行く。
近藤は、黒沢に頼み込み、良を無給でもと、ねじ込むように入れたのだった。
希庵の名前が欲しかったのだ。当時から、黒沢の店は、名店の道を丁度歩み始めたころで、黒沢もまた、 そば業界の第一人者の竹庵の修行を3年重ねて売り出してきていた。
近藤は、良に、黒沢の演出や、客への仕掛けの、方法論を盗んでこいと送り出した。蕎麦の打ち方なんかは 、時間が解決する。技術は、誰でも習得できる、と。
当時は、その意味は理解できなかったが、ともかく半年修行に出たのだ。
黒沢の店には、既に弟子は、2名。良のような見習いは、彼らとは違う扱いになる。
解りやすく言うと、研修生扱いになる。特に良は、既に蕎麦屋を新規開業することが決まっており、黒沢に とっても、ある程度の力をつけて返して、自分のネームバリューをさらに上げる素材にはなる。 まして、近藤には、頭が上がらないところがあった。
近藤は、1級建築士で、事務所を経営し、そのデザイン能力もさることながら、この10年は経営コンサル、 特に飲食関係の店舗、コーディネート、企画に卓抜な力を発揮しだしていた。
黒沢も独立時には、店のデザイン、施工はもちろん全体の考え方に、近藤の手を借りていた。
当時は、黒沢は、資金的に余裕もなく,紹介者が竹庵の師匠だったこともあり、かなりな少ない予算で近藤に 仕上げてもらっていた。
開店時には、近藤の店は、蕎麦マニアの評判を取った。2階建てだが、1階は2階に上がるまでの、雰囲気作り の、ストロークになっている。ここは、竹庵の師匠の考え方を真似ている。茶道の、小さな茶の間に行くまでの 石伝いの道の演出の技法に似ている。
茶道なら、門をくぐる。枯れた竹の門、花が一輪、石の渡り、打ち水がある。
一枚の蒸篭蕎麦に、期待が膨らむ、客。別な世界に入り込む、客。
だが良には、初めてこの店に入ったとき、何か滑稽なものを憶えたものだった。良のような町の蕎麦屋から すれば、この1階のスペースは、なんとも、もったいないし、気張り過ぎに思えた。近藤にそれとなく聞いた が、近藤は、無駄なスペースこそ大事で、そのスペースにどんな意味を持たせるかが大事だといった、 答が返ってきた。
希庵の初日、黒沢から、こう言われたのを今でも憶えている。
「僕の言うとおりやれば、いい蕎麦が打てるようになります。ただし、
いい蕎麦が打てても、いい店になるかは、また別ですが、いい店にしたかったら、この店のすべてを半年で 理解することです。」
近藤と同じことを言う、と、良は思っていた。
良は、これまでとは全く異次元な世界に入り込んだ、自分を感じ始めていた。
なお、この小説は、作者の想像上のもので、事実に基づくものでは、ありません。
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