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赤い蕎麦花 第7回 作 夢八
丸正のカウンターに貴美と、靖男がいた。銀一と美樹が長野から帰って3日後である。
「電話で、話した通りなんだけど、すごい事になってたのよ」
「・・・・・」
「銀一さん、美樹さんと湯沢で、知り合いになって、なんでも蕎麦屋で会ったらしいのね。
蕎麦屋さんで、玄屋に修業に入る話になって、美樹さんも、思わず自分が身代わりになって
いるのを、忘れて、銀一さんと色々しゃべったみたいなの」
貴美の話では、蕎麦屋で話が合ってしまって、お酒をなどを飲んで、暫く過ごしたという。
ただ、別れ際に、美樹が自分と会ったのは、内緒にしてくれと固く口止めしたという。
「銀一さんが、それをお前に相談したのか?」
「そうなの、初日に美咲姉さんに会って、ビックリしたみたい。あんまり似ていたものだから、
湯沢で、美樹さんから内緒にしてくれなんていわれてるし、これは何かあると、黙っている
のも苦しかったようなの」
「どうして俺に・・」
「それは、無理よ。お兄さんには直接言えないでしょう」
「それで、貴美ちゃん、美樹さんのところに言って確かめてくれたわけだ。色々
済まないな・・」
「いいの・・。かなり前から、身代わりをしていたみたい。最初は、何かわけもわからず
急用が出来たから、代わりに言ってくれといわれて、変だなと思ったけど、
そこは、仕方が無かったみたい」
「じゃ、旅行のたびの写真は、美咲じゃなくて、美樹さんだったのか」
「毎回、では無いようだけど、年に何回はあったみたい」
「相手が岡田とはな・・」
「お姉さんは、お兄さんが本当に立ち直ってくれないか、
ずっと待っていたみたい」
「まいったな、俺もほっておいたのは、悪かったけど・・」
「美樹さん、すごい反省していて、もうお兄さんに合わせる顔が無いから、暫く
実家には来れないって」
「そこまで考えることは無い、俺達が悪いんだから。それは、俺からも言うけど、貴美ちゃん
からも、うまくとりなしてくれないか」
「それで、美樹さんから岡田さんの話、聞いたのよ」
「岡田、惚れてのんのか?」
美樹の話では、どうしても岡田は、美咲と一緒になりたいと言うのだ。
出来たら、玄屋を出て、もう少しどこかで修業して、美咲を迎えに来たいという。
決して、びた一文、玄屋から、独立のお金貰う気はないし、裸で、美咲と蕎麦屋をやるから
靖男にそれは伝えて欲しい、と言う。
「そこまで、言われるとな・・。でも本気かな、嘘かもしれないな」
「それは、わからないけど、もう次の店、見つけてあるみたい」
「美咲は、どうなんだろうか?」
「それが、どうも、岡田さんの独り相撲みたい・・。
岡田さんだけが舞い上がっていて、お姉さんも、ずるずる、引っ張られた見たいで、
すごい後悔していたみたい」
「そうか・・」
「美樹さんが言うには、お兄さんが、本当にやり直したいんなら、もう何も言わずに、
お姉さんには、態度で示すしかない、と言うのよ。
お姉さんは、お兄さんには未練があって、必ずしも岡田さんと一緒になりたいと言う
事ではないし。」
「でも、浮気までされて、そんな事は難しいな・・」
「美樹さん、昨日も美咲姉さんに会ったみたいなの」
美樹は、靖男とやり直す気があるのなら、もう美咲に岡田と会うのは止めて、靖男が
本当に立ち直るのを見たらどうかを、説得したのだと言う。
「美咲は、なんて?」
「待つって、。それでも立ち直れないのなら、もう今度こそ諦めるって。
岡田さんとは一瞬魔が差したんだって、すごい泣いてたらしいわ」
「そうか・・」
「だから、お兄さん次第なのよ。岡田さんも2日後出るって、この店」
「皆、色々やってくれたんだ。養子の俺に」
「美樹さんが、あんなにやってくれるとは意外だったけど、やはりいざとなると姉妹なのかしら、
双子だからわかるって、間違いなく美咲は、靖男さんを愛してるって」
「そうか・・」
丸正の孝雄が、近づけない雰囲気に、暫く離れていたが、もう話も終わったようなので
側に来た。
「昨日、銀一さんと美樹さんが来て、知り合いなんで驚きました」
「あら、二人できたの?」貴美が意外そうだった。
「仲良さそうだったけど、あ、いけない、余計な事を」
「何か言ってた?」貴美が聞いた。
「二人で、やすさんの事心配してたよ。銀一さんは、群馬に来たのは、
靖男さんの蕎麦打ちを見に来た、
そう言って、残念そうだったよ。やすさんが打たないのなら、次の店に行くような事を
言ってたな・・」
「後は?あの二人は初めて来たの、ここへ?」
「そうです」
貴美にしては、銀一が、美樹と必要以上に近づくのは、気になったようだ。
「やんなきゃ駄目だよな・・」靖男が呟いた。
「そうよ、やすさん!」
靖男は珍しく、今日は、酒をほとんど飲んではいなかった。
「少しずつ蕎麦打ってみようか」
貴美と会って3日ほどしてから靖男が打ち場に立っていたのである。
靖男が、蕎麦を打った。見習いも集まってきた。岡田の姿は無かった。
一年前から暫く打っていなかったのだが、捏ねもまとめも、惚れ惚れする様な手捌きだった。
銀一もその流れるような作業に、靖男の決心が見えているように思えた。
見習い達も、なぜ急に岡田がいなくなったのかは詮索はしなかったが、岡田と美咲の
関係は、噂にはあったから、それには、触れてはいけない、と思っていたのだろう。
靖男の包丁さばきも、見事なものだ。一年のブランクを感じさせなかった。
きれいに、蕎麦船に並べて行く。心なしか、厨房に和やかな空気があった。
みんな安心したのだろう。
ただ、靖男には、まだ、険しい顔があった。
銀一も、その靖男の背中を見て、不安があった。
第7回終わり
次回は、一週間後の予定。なお、この小説は作者のフィクションであり、登場人物、店舗、
団体も架空のものです。
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