蕎麦ミステリー街道(4)・天下蕎麦 -4

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天下蕎麦 第4回       作 夢八

  あくる日、丸の内のテナントを案内してくれた不動産を訪ねた。
 「昨日の物件は、そちら様の直接物件ですか?」
 「いや、あのくらいの大きなものになると、いくつかのところに声が掛かってますから」
 「あの物件は、これまでに興味を示したところはありましたか?」
  もし、他の蕎麦屋が、違う場所に決めていたとしても、ここは見に来ているはずだと
  思っていた。
 「1月前後に、蕎麦屋で先決を入れたところがありましたか?」
  先決とは、何日か後に結論を出すので、次の客が来ても先に決める優先権を持つ、と言う意味だ。
  あの頃は、日に4組くらいお客さんが来られて、すぐに決まると思ったんですが」
  営業マンは、机の上のスケジュール表を見ながら、記憶をたどっていた。
 「先決入れは、2組あったんだな、忘れていたけど」
 「どんな方なんだろう・・」
 「他のお客様のことは、本来、お教えできないのですが、高田様が、来週ご返事くださる
  ということですから・・、
  一組は、九州の料理屋さんでしたね。蕎麦関係だと、山花物産ですね」
 「山花、ですか?越前館とか、越前丸とか、そんな名前じゃありませんか?」
 「いや、違いますね。東京ですね、本社」名刺をめくりながら、そう答えた。名刺は
  見せたくないのだろう。
 「大勢の方がいらっしゃってましたよ。スケジュール表には7名と書いてありますな、それと
  ちん・・?、陳さんてメモッてあるな。中国の人には見えなかったけど・・
  その人は、蕎麦屋さんの感じでしたね。その人は、そうだ、お母さんとご一緒でしたね。
  ママ、って呼んでたんで憶えてますね。
  周りの人が、そのお二人に蕎麦のこと聞いてましたね。連絡先は、山花物産ですね。
  あとは、どうも・・、これ以上は勘弁してください」
 「その親子、言葉はどうでした?東京の感じですかね」
 「いや、違ったな、アクセントが違ってた」
 「どの辺りでしょう」
 「僕は、東京育ちだから、感じで言うと、東北じゃないな、友達にそちらのがいるので」 
 「もう一つ教えて欲しいのですが、この2,3ヶ月で、このクラスのテナントで、
  そうですね、銀座とか、日比谷とか他に出入りが
  あったようなところありますか?」
 「さ、僕にはどうも、・・」
 
 「山花が出てきたか!」帰ってすぐに義雄に報告した。
 「天竺チェーンだよ。20年程前に赤字を出して兄弟が喧嘩別れして、おかしくなったが
  今じゃ立ち直ってめぼしい業態の飲食店買収して、超優良企業になっている。
  築地の仲買の権利も手に入れてるから、食材は、せりで落としたまま自分らの店に流すから、
  原価率が他とは比べものにならないな、競争力が違う。店頭公開して、現ナマがうなってるから、
  使い道に困っていて、儲かりそうなことは、何でもやる。
  今、居酒屋蕎麦屋チェーンが流行りだから、当然のことかもしれないな。越前蕎麦は、目新しい
  し、料理素材さえしっかりすれば儲かるだろう。
  うまいところに目をつけたな、さすがだ。
  ただ、ドライだから、1年駄目なら、すぐに業態を変えてしまう。
  蕎麦屋を、スパゲッティ屋にするなんて、連中は平気だからな。
  蕎麦屋のノウハウは無いから、ロイヤリティ契約をして、業務提携をするんだろうな。
  契約も1年単位にされると、相手も大変だ」
 「これけの、大きなビジネスができるところは、福井でも、限られて
  いるだろうね」
 「今の話だけでもお手柄だから、光男さん、喜ぶ。話は早いほうがいい」
  銀一の頭の中は、まだ霧のようなものがあって、すっきりしない。  
 
  銀一はすぐに光男と連絡を取った   
 「どこの蕎麦屋だろう?」
  銀一は、不動産から得た情報と父からの話も詳細に話した。
 「陳、ね。そんな名前聞いたこと無いな」
  電話の向こうの光男も、必死に何かを探ろうとしているのが、伝わってきた。
 「銀一さん、こちらは土地柄狭いから、2日ほどで、この件はわかるだろう。
  せっかくのお休みなのに、もうひとつ、お願いできないだろうか。  
  築地の店舗の紹介不動産の、高橋さんに、事情を話しておくので、今動いてる山花物件
  もう少し、調べてもらえないだろうか」
 
  銀座のメインの通りは、2本ある、昨日銀一たちがいた4丁目の角を走る、銀座通り、もう1本
  は、その上で、通称電通通り、ソニービルが、角にある。
  この角地の地下1階に、山花物産が、入っていそうだとの情報を得たのだ。
  場所的には、ほぼ一等地で、よくこんな場所が空いたものだと思った。
  銀一の記憶だと、ここはかなり古くから、大きな薬局が営業していたような気がする。 
  その店舗は、ビルの入り口からも入れるが、地下道の通路からも入れるようになっていた。
  銀一は、地下道から様子を見るようにした。階段を下りると、左側が前面ガラスのドアだ。
  幕が張ってあったので、隙間から覗くと、もう縄張りがあって、初期設計の図面起こし
  くらいだろうか?作業員がいたので、向かいのカフェに入って様子を見ることにした。
  今図面段階だとすると、イメージデザインはできている。となると、開店は11月初旬か、
  光男がどんなに急いでも開店は、追いつかないだろう。
  向かいの店に関係者らしき男が3人入って行った。遅れて、男女が二人、追いかけるように
  幕の中にはいった。  
  コーヒーを飲みながら、恵を思い出して、携帯を取り出した。昨日高見庵に友人と来てくれて
  、この2,3日のスケジュールを聞いていた。
  今日の午前中は、六本木ヒルズに
  一人で、買い物を楽しんでいるはずだった。こちらも、一人だったから、銀座に昼飯を誘った。
  40分ほどで、カフェに恵が着いた。やや小柄な体だが、そのスリムなシルエットに形のよい
  バストが目を引く。清楚な顔立ちだが、艶のある肉厚な唇が愛らしい。
  銀座の中に置いても、恵は充分魅力的だった。
  窓際に二人が向かい合って、目を合わせた。恋人同士のように見えるだろうな、そんな
  想像をしていた。
 「何食べたい?」
 「カレーの美味しいのがいい」あまり負担を掛けない様にしてくれるから、銀一も気に入って
  しまう。光男は幸せな男だと思うが、本人は、恵を一人にして帰ってしまっている。
 「京橋のドンピエールに行こうか」
 「おまかせだわ」その店の、野菜カレーを、銀一は気に入っていた。人気店だから、
  1時過ぎくらいが空いていていいのだ。
 「で、なんでこんなところに?」恵が聞いた。
 「向かいの工事中の店を見ている」
  銀一が、光男の計画した新店舗で、越前蕎麦の他の動きがあって、それを確認していることを
  恵に告げた。
 「じゃ、光男さんの計画、難しくなるのかしら?」
 「それは、後の判断だけど、どんな連中が、山花と組んでるのか、まず知りたいんだ」
  恵の目が落ち着きをなくしていた。
  詳しい話をし過ぎてしまって、銀一は後悔していた。 
  向かいの、ドアが開いて、数人が出てきた。昼飯時だった。先ほど見た男たちと女が一人、
  その集団だった。
  
  銀一が向かいを注視したので、恵も銀一の視線の先を見た。
 「あっ、何でだろう・・」恵の声が、窓に飛んだ。
  恵の視線の先には、その集団の中に、よく見知った顔があった。
 「越前のお母さん、よ!」 
  銀一も、その先を、追っていた。信じられない人影がそこにあったのだ。

   
  第4回終わり 
  次回は、一週間後の予定。なお、この小説は作者のフィクションであり、

  登場人物、店舗、団体も架空のものです。

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