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雑記録:ビンテージ楽器は救われたか?
PSEとそのほかの最近できた法律雑感


 2006年の2月頃でしょうか、パール兄弟のギタリスト窪田さんが、中古家電を規制する法により、例えば1960年代のフェンダーのアンプが買えなくなると、新聞で危惧を表明していました。私はその小さな囲み記事で初めて「改正電気用品安全法」の存在と、PSEマークという経済産業省が安全性を保証するマークの存在を知りました。メーカーには製造物責任が義務付けられ、通称PL法を遵守した上で製品の製造を行います。しかし中古品の売買にあたっては、流通業者が製品の安全性を担保する義務が無かったため、古くなればより安全性が劣化するであろう家電製品は、漏電検査をしてもらい、それに受かれば経産省お墨付きのマークを貼付、そのマークによって購入者も販売品の安全性を目視確認を可能にする、という内容です。
 何でもかんでも規制することは民度の低さの顕れだとしても、松下の古い暖房器具に欠陥があって回収騒ぎがあったのも耳に新しいように、中古家電の売買を安全基準に則り規制することは、確かに理に適っているかもしれません。ただしそれは日本という国の「モノ」に対する消耗主義思想に於いてであって、あるいは電気を使う製品はすべて家庭用品でしかないというお役人の想像力の貧困の上でのみ成立するものだったのでした。そうなんですよ、ロックと言えばエレキ、エレクトリック楽器でしょう。エレクトリック・ギターにエレクトリック・ベース、エレクトリック・ピアノに各種キーボードにシンセサイザー、あるいはアンプもミキサーも全部電気で動く訳です。そしてまたご存じの通り、フェンダーのストラトキャスターといえば現行品より1960年代のモデルの方が仕上がりが良く音色がいいため重用される訳です。いっぽう法解釈上は楽器も電気を使うと、冷蔵庫やトースターと同様の電気製品にくくられちゃう訳なのでした。楽器も電気で動く以上は単なる電気製品なんですね。たしかにアンプや、周辺デバイスであるファズとかワウワウなどは楽器そのものでなく電気製品では有りますしね。でもって中古の電気製品は確かに安全性に問題がないとは言えない。窪田さんの疑義表明のあと、知名度の高い坂本龍一さんや、その他大勢のミュージシャンが反対運動を起こしたのが功を奏したせいなのか不明ではありますが、3月初旬になりこの法律からビンテージ楽器は除外されることになりました。ただし解釈はあいまいな部分が多く、大手の石橋楽器でもまだ対応に苦慮しているそうです。また一般の家電製品も中古品販売業者が「販売」でなく「レンタル」だ、という異様な解釈をお国のほうが言いだし、結局法律自体が骨抜きになってしまいました。

 この騒動には二つ教訓が有ると思います。ひとつはお役人がロックを知らなかったこと(^_^;)、もとい法解釈の中にビンテージ<エレクトリック>楽器や周辺機器が含まれる可能性に関して思い至らなかったこと。つまり起りうる可能性や対象となる物品についての事前調査が、いささかおろそかでは無かったかという問題。二つ目は、改正法の施行は2001年4月とかなり前であり、かつ販売禁止措置の発動まで業界のことを考え5〜10年の猶予期間を置いたにもかかわらず(1年後に本格施行される法律も有ります)、その間のアナウンスが不足していたことです。

 今回の件は恣意的に中古楽器売買をターゲットにした法律では無かったと思います。従って著作権からみの法改正でCCCDなどという不良品により輸入盤を排除する方向へ誘導した国内音楽産業のロビー活動の所為(あくまで想像ですが)とは次元が全く違う話でしょうけれど、しかしつくづくこの国の文化行政というのは、芸術に対するリスペクトが欠けていますね。中華思想だから普段余り尊敬はしないけど、おフランスはしかしこの点では立派です。

 これと一緒くたにしてはいけないのでしょうが、私自身が最近業務上で関わった「警備業法」「個人情報保護法」なども、条文解釈のあいまいさが多かったり、アナウンスが不足していたのではないか、という感想を抱いています。警備業法は数年以上前に起きた明石の花火事故の教訓から、警備を行う事業主体者の責任と義務を明解にして同様の事故防止を図るという素晴らしい目的から生まれたそうですが、そもそも明石の事故の責任主体は市と所轄警察であって、民間事業者じゃなかったですよ。高邁な理想があったのに、結局民間事業者でも警備業のライセンスが必要なら、教育研修を行う人材の配置が必要ですよって、まるでOBの天下りポスト増加のために作った法律では?と疑ってしまういました。さらに警備業に当たる業務かどうかの判断は、なんと全国共通見解ではなく、所轄の判断なのだそうです。個人情報保護法は経産省がガイドラインを発表したので、そこまでレベルが低いことには成っていませんが、しかし「5千件以上の個人情報を扱う事業者」が対象の法律なのに、公立の小中学校などまでナーバスになりすぎで、変な波及効果が出てしまっています。企業も社会面下の謝罪広告の嵐になるし、いっぽう漏出名簿によるテレアホのうるさい電話はオフィスで一向に減りません。

 私は若い頃は法律と無縁でしたので良く分かりませんが、なんだか法律を策定する側の能力が低下してきたように思えてなりません。時代がややこしいせいなのでしょうか。あるいは、法律もJ-POPとかJ-文学みたいに、どんどん生産され消費される軽いモノになり、J-法律になっちゃのかしらん。この先はJ-憲法というのも良いかもしれませんね。ブームとトレンドに従い、2、3年ごとに改正すればいいんですから。あるいはアメリカにつっこまれ、中韓に文句言われれば、その度に改正すれ良いので、いちいち悩まずに澄みますね。ビンテージ楽器は救われそうですが、法律の軽さはどうなるのでしょう。

2006.03.18